私が勤務するお店は昭和町にありました。その名はシェ シノワ。
当時ヌーベルキュイジーヌ(新フランス料理)という大号令の真っ只中。シェフは、もうその時、名前が売れていた薩川シェフ、グランシェフは、全国的に知名度があった、ルイ・ラツールの大藤シェフ。私は、その中の一人ということだけで、その空気や時間がいとおしく感じていました。
ある日、グランシェフがお客さんを連れてシノワに来店しました。
お客様は、オーミラドーの勝又シェフ、東京の坂井シェフです。専門書に出てくる人たちなのです。
分かりやすく言うと鉄人シェフです。びっくりです。厨房では一瞬緊張感と殺気が入り混じった異様な雰囲気。先輩のスーさんは、いつもニコニコしているのに急に顔真っ青。マネージャーの富田さんもいつもより声が大きくなっています。
「トロワ ペアルゾーン シィルブプレ(三名様ご来店です。)」
「ウイ ダコー(承知しました。)」
まだ慣れていないフランス語を使うのはテレもありますがいい緊張感を作ってくれます。
おい、ブール・・クッペして・・モンテ・・セニャンで・・
順調に料理が出来上がります。よーし今日はうまく回せてる。シェフをうまくサポート出来たと思っていた、その時です!グランシェフ大藤が厨房にきたのでした。
なれない厨房、なれないフランス語、いっぱい、いっぱいの所でグランシェフです。
テンション急上昇で頭の中が壊れ始めました。
「ハナ・・シブレット(西洋細ねぎ)くれ!」
シブレット、シブレット・・・、いつもなら分かるのに思い出せない!野菜という事は分かるけど、シノワでは下ごしらえしたカット野菜が十種類もあるのです。そのうちのどれかに違いない・グランシェフが見てる。薩川シェフも見てる。もういい!これだ!
その十種類の小箱のうち真ん中の小箱を差し出した。
「なんや!ハナ!シブレットって言ったやろ!」
出ました関西弁・・と思ったときにはその収納箱が頭の上から降ってきたのでした。
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