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静岡レストラン物語History

その12 料理人のクリスマス その1

12月は予約も立て混んでいました。
この時代(もちろん修行時代)、ドンペリやブゥーブゥークリコに生牡蠣というのが流行していたと思います。一人で8個ぐらい必ず召し上がる方もいて、おかげで牡蠣開けはかなり上達しました。

シェフの考える方向性が大体わかるようになり、順調に仕事を覚えて行ったのですが、まじかに迫ったノエル(クリスマス)を考えると胃が痛くなります。この頃のフレンチは大変換期で、ホテルよりむしろ個人店の各地のフレンチ、ビストロなどが専門誌などで取り上げられていました。クイーンアリスの石鍋さんの本が出たり、イタリアンではアルポルトの片岡さん(東京)がでてきたころでしょうか。そんな背景もありノエルはその店を任されたシェフにとって大舞台。気合が入るわけです。また、私たち見習いの小僧にとってもノエルを過ごすと一皮むける・・そんな事がいわれるぐらい大変で試練の時期なのです。

ノエルのメニューが決まり。打ち合わせも終わり、あとは各ポジションがシェフと相談しながら完成させていくのです。といっても、若い衆はスーさんと私の二人。

「おいハナ、コレを60個焼いとけ」

シュー生地で作るバスケットと木の葉でした。
網目模様のバスケットにソルべを3種類入れて木の葉を飾る・・デザート盛り合わせの一部分です。試行錯誤しながら、綺麗に焼ける方法を見つけながらなので 、3時間で20個ぐらいしか焼けませんでした。

次の日もオーダーをこなしながら、色んな方法と手順を考えていました。忙しくなかったので、シェフは客席でメニュー書き、カウンターのお客さんのオーダーをスーさんと二人でつくっていました。

「ハナ、ストーブからだして!」

スーさんに急に言われて、さっとオーブンからフライパンを出そうと思った時、小指が鍋つかみから、はみでたままフライパンをつかんでしまった。

「あっ」 その時はもう遅い。゛ジュッ゛という音と゛離すな゛という心の叫び。

盛台に運び、手を離そうと思っても指がひっついて離れません。気合を入れて指を引き離した瞬間、横の棚にあるタッパーに手が当たってしまった。スローモーションで落下するタッパー。それには3時間かかったシューのバスケットが・・・

その十分ほど後、シェフが帰り際に声をかけてくれました。

「ハナ順調か?バスケットはだいたい終わったか?」

「はい。」

はい。としか言えませんでした。朝日を厨房で見ることを選択してしまった私です。

ノエルの仕込みは、未だ始まったばかりだというのにもう徹夜。

頑張ることしか出来ない時期ッてあるよね。と言い聞かせながら、黙々とバスケットを焼く私でした。

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