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静岡レストラン物語History

その13 料理人のクリスマス その2

何度もつまづき、何回か残業して何とかノエル ( クリスマス ) の仕込を終え、打ち合わせどうり、後は活き物を処理するだけ。コレからが正念場。そうオマール海老の処理が合計六十本ぐらいを、普通の日の仕込みとオーダーをしながらしなくてはいけません。そう・・ひとりで。
スーさんはスーさんで平目や海老で満パイ状態。必死です。まだ、そう何本もオマールを任されていない頃です。ドキドキものです。値段を考えると容易に指が動きません。今日は夜の営業前にオマール海老をボイルして、営業が終わったらオマールを解体しようと段取りをし、ボイルした後、冷やすための大きなボールに氷を入れてスタンバイオーケー。
さあお風呂ですよ!ってオマール海老に余裕で声をかけ、 20 本ぐらい入っている段ボールに手をいれた瞬間・・うっ!なんだか違和感!ありえない事が起こってる。オマール海老のつめは危険なので、太い輪ゴムがかけられているのですが、そいつは何故か私の指を挟んでいる。わ・わ・輪ゴムが外れてる!認識したとたんに痛みが走る。思わず手を引っ込めたのが、よけい悪かった。見事に切れてしまいました。
・・その夜、オマールに仕返ししたのは、いうまでもありません。・・何とか何回も苦しい思いをしながら、ノエルは無事すぎていきました。何をどう動いたのか夢中で覚えていません。ただ、自分の中である思いが芽生えていました。

これで最後のノエルにしようかな・・料理やめ・よ・う・か・な・・・

気持ちが前に向かなくなっていたのでした。

いよいよノエルの最終日になりました。全てを出し終えた満足感と少しだけの開放感。さあ!あとは掃除して磨いてシェフに退職願いを出そう。タイミングを見て出そう。そう思っていました。ノーゲストになり、いまだっ・・と思った時、

「ボンソワー・ムッシュ、どうぞ。」

グランシェフ大藤を迎える、マネージャー富田氏の声です。まいったなーこんな時に・・辞表を提出するタイミングが・・シェフ薩川が呼ばれました。何かなぁ。スーさんと私は戦々恐々です。悪いことがなければいいよね。今日だけは帰してほしいなぁ。切実な願いでありました。

 「スー、ハナッ!こっち来い!。」

お呼びです。まずい。恐れていたものが来たのか。

呼ばれたテーブルにはグラスが用意してあり、富田氏がドンペリをついでまわります。

 「みんな良くやった。これはワシからのご褒美や。」

グランシェフ大藤が言いました。続いてシェフ薩川

 「みんなありがとう!よくやったな!ボン・サンテ! ( 健康に乾杯 ) 」

生まれて初めて飲むドンペリ・そしてはじめて聞いたよくやったと言う言葉、そして、とにかくノエルを乗り切ったんだ。という達成感。単純な私は涙を堪えるのがやっとでした。そして、出そうと思っていた退職願をポケットの中で握りつぶしていました。

料理の世界に完全にはまってしまった人間の誕生でした。ボン・サンテ!

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