メガピクス

静岡レストラン物語History

その17 革ジャンとシェフ(2)

自分が任される店はどんな店だろう。青葉公園のス〇亭の道路を市役所側に渡り、2店舗先にその店はありました。隣には洋菓子屋オーデリースがありました。その店の名前は「はんどるや」・・何屋か分からない変わった名前の店でした。ただ周りのロケーションとか一階の店舗で人通りもある・・しばらく公園のベンチに座りながら人通りを眺めていました。色んな人が色んな思いを抱えて、それぞれの希望や目標を握り締めて歩いているのかな。やってみようか・・前だけしか今は見てはいけない。どんなことがあっても自分が歩く道だったら一歩一歩後悔しないように歩けばいいさ。

早速この話しを引き受ける事を報告し、このお店でお世話になった人達に感謝しながら J 店をあとにすることになりました。辞めるまでの一ヶ月はあっという間でした。薩川シェフに相談に乗ってもらったり、メニュー作りやら。そして、明日はお店の定休日で、いよいよ今日一日でこのお店を去る日。私物を整理し、白衣などの借り物をきちんとたたんで厨房を磨いて・・という段取りです。昼休みに、まず誰もいない厨房でかたづけを始めると出てきた小さな不揃いの紙束。
あわてて書いた、レシピを補足するためにその場で書いたもの。めくるとそれぞれを食べてくれた人の顔が浮かびます。初めてカウンター越しに会話した鴨サラダの大好きなおじさん。来るたびに声を掛けてくれてありがとう。初めて作ったテリーヌをワイン片手に「うまいね。」と言ってくれたおじさん。ありがとう。
・・・ 色んな思い出を辿りながら、まとめた不用品を裏に捨てに行くと「ハナちゃん!。」という声。振り向くとJ店のマダム(奥さん)。がんばってね。と握手した手に違和感が・・。手を開いてみると一万円札・・・。みんな、みんなありがとう。全てに感謝です。

 あとは着替えと更衣室にあるものを持って帰るだけ。コックコートが何枚か掛かっている中の自分の物を探していると、一番奥に黒っぽい物を発見しました。えっ・・トシ君にあげた筈の革ジャン。そうなのか。気に入ってもらえなかったのか。ショックだなあと思いながら、渋いそいつを取り出して袖に手を通して見ます。何か違和感! あるはずの裏地の感触がところどころなく、手首、襟首がザラつきます。もう一度脱いでそこを良く見ると、皮でないところが微妙に腐っていて、皮も裏地と一緒にカビっぽいのです。きちんと点検してあげれば良かった。いいと思ってあげたけど、かえってトシ君を悩ませてしまったのでしょう。要らないと言えず、彼も目に触れないところにしまっておいて忘れたのでしょう。トシ君ゴメンネ。顔面から血の気が失せていきます。今更誰にもみせられない革ジャン。コックコートの中に折り込んで紙袋の中へ。そして上にはタオルと包丁をおいて誰の目にも触れないように・・。

 最後の挨拶をオーナーシェフ夫妻、トシ君やバイトの人にして頭を下げながら「ありがとう」少し歩いて、振り向いて、手を振りながら小さく聞こえないように、
「一足先にシェフになるよ、今度は新品をプレゼントするからね。それまでオレの事忘れないでね。アビアント!。」 ・・・と。

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