メガピクス

静岡レストラン物語History

その19 ビールとヒデと乾杯と

『はんどるや』という店を任され、その名前は馴染めなかったけれど、ヒデと一緒に夢中で仕事をしました。というか、ほとんどの雑用はヒデがやってくれたので、私は料理に没頭する事が出来て本当にスムーズに事が運んで行く。
私が来る前から一緒にヒデをトップとして働いていたアルバイトさんも、さぞや困惑したであろうに、そんな様子も感じさせないくらい対処をしていた。 全てはこの店を良くする為に・・

テーブルの配置を変え、予算がないので色画用紙にフランス語でビアンド〔肉〕とかポアソン〔魚〕とか書いて客席側から見える綺麗ではない所に目隠しをしたり〔後に某大学の先生が来たとき、スペルが違うよ、エスが1つ少ないから魚じゃなく毒だよと指摘された事もありました(苦笑)〕、店の入り口の脇にメッセージボードを置いたり、メニューをこまめに変えて手書きしたり、話し合いながら、手間がかかるソースベースをしっかり作り、調理過程で出る焼き汁などを加え、その場でソースを仕上げる方法に変えたり、デザートも常に三種類とソルべを二種用意する様にしたり、自分たちの目標のために、ただひたすら頑張っていました。

若かったし、任された店、それに独りではないという意識で走っていた。休日前にヒデと飲むビールが唯一の楽しみだったかも知れない。一日の自分たちが設定した売上目標に届かなかった時に、自分たちのお金で伝票を書いて、売り上げに足してビールを飲んだものですが、そんなビールでさえ満足感か味わえた。不思議なものです。

そんな調子で3~4ヶ月経った頃、昼休みに文具を買いに出た。
ヒデと二人で店に向かって歩き始めた時、直ぐ前を歩いているサラリーマン二人の会話が所々聞こえてきます。どうも、左側の人が「この間行った店が不味くて・・」というような話しをしています。私たちはちょっと気になってしまい、話が聞こえるぐらいまで早足で近づきました。
でも、青葉公園を過ぎ、もう少しで店に着くので、最後まで話は聞けないだろうと思いながらも、後ろを歩きながらとうとう店の前まで来てしまいました。
やっぱり内容が分からないままかと思った時、右側の人が店を指差して「ここ、美味しいよ。最近変わったみたい。」と横の人に言っているのが聞こえました。はっきりと聞こえました。我々二人はしばらく動けませんでした。その人達がマクドナルドの角を曲がったのを確認して、急いで店に入りました。うれしかったなんてモンじゃない。ヒデと手をたたきながら踊ってしまいました。その日は得別に赤えびすのばあちゃんのところで乾杯です。今はもうありませんが、終戦後の屋台の時代からの生き字引、名物ばあちゃんのお店でした。ささやかな贅沢ではありますが、その日のビールは格別でした。ヒデと何回も乾杯しました。

このころ街中居酒屋業界では、暖談、暖楽、赤ひょうたん、ムラサキ、チキン亭グループが目立っていましたでしょうか。クラブというのはまだ女性が横に付く飲み屋さんで、踊るところはディスコという時代、ギゼ、キングアンドクイーンとかありましたね。

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